〜ソーシャルアートビューと再就職〜 林 賢
三年前、Nさんと一緒に横浜美術館へ行った。Nさんは視覚障碍者。そしてNさんの介助者一人、五名の晴眼者、全員で七名。Nさんの案内スタイルの内容は、十五分程度で館内を見て回り、好きな絵画を選んできて、皆に『主観的に』説明して欲しい。そしてNさんが質問を重ねていく。
目が見えなくても、イメージができるまで絵画を介して対話を続けていく。物理的な質問や表現が続いたあとに、全員が平等に他のメンバーの表現も踏まえて、こんどは『客観的に』感じたことを対話していく。「この絵からあなたは何を感じるのか」、「画家の意図は何か」など根源的な対話をしていく。
一点の絵画にかける時間は十五分から二〇分程度ですが、七名が五点の絵画を介して、対話を終えたとき、独りでは決して得ることのできなかった多様な視点に気づき、新しいイメージを創るという幸せで、人生三度目の変革体験になったのです。
人はイメージをどのようにして創るか
——全盲でありながら、対話型グループ絵画鑑賞のナビゲータをするというNさんのことを三年前にラジオ番組で知った。
最初の疑問は、「いったい、どうやって絵画をみるのか・・・・・・」。
また、目の不自由な、見えない方が何故、絵画鑑賞をするのかが不思議でした。
そして絵画鑑賞のナビゲータをするとはどうやって……。
そんな疑問を抱きつつ、「お会いしたい!」とNさんにメールをしてみました。予想に反して、直ぐにリターンメールがあり、お会いする日をその日のうちに決めることができた。
「本当に見えるのか」か「何のためにやっているのか」を訊きたい・・・・・。
事前の情報は以下のようなことだけでした‥‥。
——三十九歳のときにバイク事故で失明し、全盲に。
——事故前はCGデザイナーとして活動していた。
——事故後は鍼灸や薬膳を学びプライベートキッチン付きの鍼灸サロンを開設。
Nさんのサロンを緊張の中に訪ねた。
訊くと、事故後はひとつひとつ学び直し、「過去に戻らないように前を向いて生きてきた」と語ってもらいました。家族、友人、福祉の関係者のサポートを受けて、点字、白杖、鍼灸の勉強をへて、今の生活につながった。
——「美術館では、対話のなかから新しいイメージができる楽しさがある」
——「次の活動テーマの糧になる」
苦労を感じさせない話ぶりでしたが、美しいサロンのインテリアデザインや清らかな空気感がNさんのこれまでの生き方を想像させるモノでした。
活きていくための「生きがい」事業の発見
目が不自由であるということを他人事ではなく自分事として考えたとき、晴眼者だけの「対話型グループ絵画鑑賞」だけではなく、私も目のご不自由な方と新しいイメージを創る、ナビゲータ(絵画鑑賞を案内し対話をする人)となって「ソーシャルアートビュー(目の不自由な方を交えた対話型グループ絵画鑑賞)」活動をしていこうと決心した瞬間でした。
四十年間のデザイン活動の中で(構想段階の)もっとも大切な「コンセプト」構築に必要な要素が詰まっているワークショップだとも感じたのです。
・多様な視点の大切さを体感→多様性に気づくワークショップになるか
・参加メンバ―の個性が短時間で知ることができる→ゆるくつながるきっかけとなるか
・見えないモノを観るコトで出来るイメージ→創造性の開発、コンセプトワークの訓練になるか
これらの仮設を検証していく楽しみが、当面の「生きがい」事業になりました。
「人が喜ぶことをしていく」ことは「ソーシャルアートビュー」活動とリンクしている。セカンドキャリア以降、仕事での社会貢献価値は、年齢により対価は低額となった。セカンドキャリアの業務は「やりがい」はあるのだが「生きがい」といえるテーマではないと感じ、
意を決し、六年間お世話になった会社を辞めた。しかし「生きがい」事業はすぐに稼ぐ事業にはならないと思っていたので、補助金申請の企画書を数回書き、武蔵野市市民活動補助金を三年間も継続して頂戴できている活動となった。
稼ぐための「やりがい」事業の再発見
東京都のセカンドキャリア塾、キャリアトライアル65の中で、シニアを積極的に採用していこうという会社、数社の面談をうけ、シニアインターン制度を利用した。訪問して直ぐに社長から「シニアには経験価値がある。シニアも(稼ぎを拡大していくという)夢を持ってほしいのです」と言われた。私のセカンドキャリアで得た知識や経験をこの会社(サードキャリア)でシステム化する夢を買ってもらった格好です。
一歩ふみだす勇気をもらった「やりがい」創りへの共感の出会いでした。
シニアになっても新しい仕事をさせていただくのは、義務ではなくて、チャンス。お客様に出会い、仕事を通して、市場に入り、社会貢献していくチャンスを与えられたということ。このチャンスの中で自分がどう振る舞うかが次につながっていく。チャンスをものにできるかできないかは、すべて「生き方」で決まってくる。
私は今、「生きがい」の事業と、稼ぐための「やりがい」事業を再セッティングし、両立させていこうとしています。